かなり古い話で,本当に古い話で たいへん恐縮ですが... 
 
 
  東京天文台ではありません。国立天文台です。東京大学附属東京天文台であったものが,平成元年度より文部科学省の管轄に移ったのです。国立天文台は,『我が国における天文学研究のセンターとして第一線の天文観測施設を全国研究者の共同利用に供するとともに,共同研究を広く組織し,また国際協力の窓口として,天文学及びそれに関連する分野の飛躍的発展を目指す大学共同利用期間』なのです。う〜ん,とりあえず なるほど。
 場所は,東京都三鷹市大沢。JR中央線で上野から約40分。武蔵堺駅で下車して,バスで約15分。東京都とはいえ,静かな街の中にあります。
 平成○年3月19日(日)朝,徳島を出て一路,国立天文台へ。実は知り合いの方の弟さんが国立天文台の職員として研究に携わっていて,その知り合いの方から『今度,案内するから行かないか?』とのありがたいお誘いをいただいていたのです。私にとって激動の3月であったのですが,めったにないこんなおいしい話,一発で『ありがとうございます。行きます。』の返事。

 その弟さん(研究室はあの磯部先生の部屋の隣でした)に案内役をしていただいて,パンフレットを見ながらひょこひょこついていきました。
 国立天文台,そこは広さ10万坪!ごっつい広さです。そしてその構内のほとんどが雑木林。うわさどおり,そこはまさしく国木田独歩の世界。広い広い雑木林の中にポツンポツンとドームがあるんです。上の写真を見て下さい。まさに森の中の天文台。といってもドームは一つじゃありません。見学しただけで7つ(だからもっとあります),ドームに類する設備も見ただけで12(だからもっとある)。その中でいくつか主だったものを紹介いたします。
 
 左の写真は,国立天文台の入り口。
 
 
 まず案内してもらったのが,かの有名な65cm屈折望遠鏡。でもなんです。それが入っているドーム,雑木林の中にポツンとあるんですが,おもいっきりボロッちい!(現在は再塗装されてきれいらしい)あちこちがはげていて,さびていて,今にも崩れそうなドームなんです。『これが ぁ〜あの65cmの・・・』動揺は隠せませんでした。入ってみると,真っ暗。そりゃ当たり前。当然電気消してあるもんね。灯りがつくと,そこには写真で見たあの65cm・・・。

          でっかい・・・!

 ドームの中で振り回すことができないのではと思うほどピッタンコ状態で格納されています。
 ツアイス製のものですが,古い。圧倒的な迫力。でも古い。赤道儀もものすごい。でもやっぱり古い。焦点距離は10.2m!ごっつい〜!けど古い。(ちょっとしつこいかな)
 第一次世界大戦の戦勝国であった日本は,ドイツからの輸入を有利に展開でき,いろいろな付帯設備もほとんどがドイツ製だったらしいのです。第二次世界大戦中は,レンズのみがはずされて地下へ”疎開”していたそうです。 
  

 左がその巨大屈折の写真です。(見学させてもらった)当時は土星の衛星の観測や二重星の観測にしか使用されていないそうで引退も近いのではとのことでした。


 65cmのドームを出てから,あちこち歩きました。50〜100m行く,ちょっと変わった形のとドームがありました。何が入っているのか尋ねると,多くが太陽観測用の望遠鏡(20cm屈折,10cm太陽写真儀,シーロスタット)ということでした。そして次に多いのが子午環。わかります?”子午環”。これがあちこちにあるらしいんです。
 昔々,この天文台での主な研究は位置天文学で,それを反映しての子午環というわけです。
 子午環とは,真上をどの星がいつ通過するかを観測するものなんだそうです。それを観測することによって,時刻や地球の自転,観測位置などが詳細に調べられるそうなのです。昔は地球の自転が時計の基準だったわけで,”東京天文台”は日本の時刻の総元締だったのです。
 左の写真は,自動光電子午機が入っている設備です。かまぼこ型のおもしろい形をしていますが,これは1982年完成の世界でも最新鋭と呼べるもの。口径19cm,太陽から12等の星まで,1時間当たり50個も測定可能とのことです。
 
   そしてまた歩いていくと,変な,いや普通の.....小屋? がありました。下の写真がそうなのですが,この建物,何だかわかりますか?なんとこれは”重力波を研究する施設”なんです。説明を聞いてビックリ。『こんなのが・・・・・まるで物置!』口には出せません。『へぇ〜すごいですね。重力波というと○△□★※ですね。あのアインシュタインの方程式から予言されたという・・・空間の歪みが・・・質量をもつものが移動すると○×△■・・・。』と,知ってることをもっと知ってるかのようにどんどん出して質問攻め。『かっこいい〜きゃあ〜ステキぃ(*^_^*)』と,二人の会話を聞いた人ならきっとそう思うに違いないでしょう。
 (本気にしちゃダメですよ。上の数行は,重力波によってゆがめられた夢想空間です。)
『でも こんな小さいので精度出るんですが?』と聞くと,『そのとおりなんです。実は向こうに100m以上のものを計画中なんです。』とのお答えが返ってきました。これだけ広い敷地なんだから造り放題ですよね。
 
そしてそして次は,またまた安心感を与えてくれるような施設。そこは○△製スライディングルーフを二つくっつけたもの。FRP製といえば,よく知ってる方は あ〜あれねとわかることでしょう。
 中に入らせてもらうと,びっくりびっくり,○村製25cmカセグレン式の反射望遠鏡に,私と同じビク○△製の10.2cmのフローライト屈折。プロといえば,すごい機材ばかりを使っているんだろうと思っていたのですが,これを見て喜びましたね,私は。『これ いっしょ!』なんて,小さい子どもようには言いませんでした。思っただけです。
 ところが,まだまだビックリは続きます。そのカセングレンの向かいにあるビニールを取ると,そこにはまったく同じ望遠鏡が姿を現したのです。25cmがあっちとこっちに2つ。10.2cm屈折も2つ。お互いが向かい合って設置されているのです。
 『これはいったい何なんですか?』との質問に,『ここが私の最近の主な観測場所なんです。これは干渉型光学観測装置(ちょっと正確でないかも)で・・・光を干渉させて・・・。』
 この話は難しかったあ。雰囲気はわかるような気がするのですが,理屈はさっぱり。まあ遙か遠くの恒星の詳細がわかるというすごい設備らしいのです。
 
  

 そして そして,そして,最後に一番新しい建物に連れて行ってくれました。そこの屋上には真新しいドームがついていて,中には1.5mの反射望遠鏡が収められていました。(写真上)これは赤外線シミュレーターと呼ばれるもので,平成6年完成と,まだ湯気が出ています。見学当時,建設が進んでいた大型望遠鏡”すばる”のスケールダウンモデルで,基本構造は同型。鏡面は金メッキです。アルミメッキより金メッキの方がより強く赤外線を反射できるのです。
 ”すばる”は赤外線観測を目的の一つにされています。でもその赤外を受けて調べる眼に当たる部分(装置)はここで十分開発可能ということです。すなわちこの1.5m望遠鏡は”すばる”の制御システムや赤外線観測装置の開発を行うためのもので,同天文台でももっとも重要な機材の一つということができるのでしょう。
 
 
 天文台といっても,広い敷地,そのほとんどが雑木林。その中に,正確に南北東西に伸びる未舗装の道。紅・白の梅の花(3月でしたから)の中にうもれた小さなドーム。どこまでも続く並木道。真昼なのに霧がたちこめそうな,鳥の声とともにキツネやシカがすぐ目の前に現れそうな,『ホントにここは天文台?』と思ってしまう幻想の世界。人の気配もなく,静寂の世界。そして色で例えるとセピア調の世界。

 『うん,ここは国立天文台だ!』

 本当に天文台らしい天文台とは,こういうところなんだと妙に感動めいたものが胸にわき上がってきました。
 また機会があれば,ぜひもう一度見学に行きたい。とても良い所でした。                       

Report by ピッコロ

                           
 
※さて,ここで問題です。冒頭に記した通り,ちょっと古い話なのですが,このリポートは西暦何年の話でしょう?
 ヒントは,この翌日,あの地下鉄サリン事件が起きました。実は私の目の前でも・・・ちょっとだけピンチだったかも。



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