惑星比較観望会  2020/09/08


 
 観望会係さんより『惑星を見比べてみませんか』という声がかかりました。ちょうど新型コロナの関係で,ことごとく予定の観望会が中止となる中,久々の観望会イベントとなりました。
 場所は,こちらも久しぶりとなる吉野川南岸河川敷。個人的にはこの付近には,ちょくちょく来ることはあるのですが,複数で集まるのは本当に久しぶり。
 
 今回は,惑星を対象に望遠鏡での見え味比較が目的。いつもとかなり違ってるかもしれない観望会。
 揃った機材は,口径の大きい順にタカハシ製ミューロン210,スカイウォッチャー社製18cmマクストフカセグレン,シャープスター社製10.6cm屈折の3台。どちらかというと,どれも惑星向きの鏡筒といえそうなものばかり。タイプも全部異なっていて,台数は多くないものの確かに比較観望には最適。
というわけで,『比較』,『鏡筒の特徴』といった視点からレポしてみたいと思います。

 
 ※<口径の大きい順に簡単に機材紹介>(注)細かい特徴までは説明に含めていません。
 まずは,タカハシ製ミューロン210。口径21cm焦点距離2415mm F11.5。鏡のみを使った純反射タイプ。
 ニュートン反射望遠鏡で20cm超の鏡筒となると,F5としても1m程度の長さになり,重量も10kgを軽く超えてしまいます。それをカセグレン形式の筒の短いタイプにすると長さも重さもニュートンの半分近くにすることができます。ところが,カセグレン式というのは副鏡が双曲面という複雑な鏡面となり製作が非常に難しい。精度保証にも相当な技術が必要となります。そのため,『カセグレン式の反射望遠鏡は良く見えない』といわれることがよくあります。それを短筒的な見かけの形状は同じで,主鏡を製作しやすい楕円面,副鏡を球面にしたドールカーカム式の望遠鏡がミューロン(これは商品名)。
 特徴は,視野中心部が無収差!星は完全に点像となり,これ以上ないほどの最高のシャープさを誇ります。焦点距離も長いため高倍率も得やすく,惑星向けの望遠鏡だといえるのはそこが大きな理由の一つ。短所は,逆に低倍率が得にくいこと。視野中心を離れるとコマ収差という像がぼやけてくる収差があること。この点でも惑星向きの望遠鏡といえるようです。
 そして,口径が21cmもあると,集光力もかなりのもので暗い天体も捉えやすくなります。すなわち暗めの星雲星団にも対応できる鏡筒。そういう意味で(低倍率を必要とされる場面以外では)オールマイティな鏡筒であるわけです。
 鏡筒口が開いているため,鏡の温度が外気温に順応する時間も早く,短時間で星像が安定するという長所もあります。
 次に,中国スカイウォッチャー製マクストフカセグレン型(略してマクカセ)の望遠鏡。口径18cm焦点距離2700mmF15。
 こちらも形状はカセグレン型の短めの反射望遠鏡。筒の前に大きくへこんだガラス(補正板)があり,鏡だけではなく,ガラス材と鏡の両方を使ったカタディオプトリク式という望遠鏡の範疇に入ります。
 こちらは全ての面が球面であるため,非常に精度良く製作しやすい。
 この鏡筒も焦点距離は長いため,ミューロンと同じく高倍率を得やすく低倍率は得にくい。
 マクストフカセグレンの長所は,副鏡がレンズの裏面に蒸着されたり貼り付けられたりしているため,副鏡を取り付けるための金属製の支持脚がありません。そのため,支持脚による光の乱れがないので,屈折機のように星像が○。コントラストはあまり低下しません。高倍率も得やすくコントラストも良いので,こちらも惑星向きの望遠鏡。
 ミューロンのようなコマ収差はないかわりに,視野中心部のシャープさはドールカーカム式に劣ります。屈折望遠鏡のようにコントラストが良く,『しっくりと落ち着いた像』が特長です。
 けれども,鏡筒口が分厚いレンズでフタをされた状態にあるため,空気の出入りがほとんどなく,外気温に鏡が馴染みにくいという欠点があります。 
 

 最後に当夜の最小口径機。中国シャープスター社製の10.6cm屈折望遠鏡。焦点距離は690mmF6.5と短め。
 屈折望遠鏡には色収差という宿命的な収差があって,通常のレンズでは像が甘くなり,像は落ち着いているもののシャープさはありません。その色収差を改良したのがアポクロマートというタイプの屈折望遠鏡で,屈折率の高いレンズが使われます。
 この10.6cm屈折は,オハラ光学のFPL-53という高屈折レンズを使って,色収差を軽減しています。屈折望遠鏡は星からの光の進行方向に(反射望遠鏡の副鏡のような)遮蔽物がないので,入射光が乱れにくくコントラストが高いという性質があります。この色収差をしっかりと抑えることができれば(球面収差補正も同様に重要ですが),理想的な望遠鏡に近づける可能性があるといえます。ただ,大口径のレンズは重く高価になるため,大きな屈折望遠鏡をあまり見かけることはありません。


 では,この3機種で見た木星,土星の印象です。
 望遠鏡をセッティングして観望を始めたしばらくは,外気温に馴染む必要性の少ない屈折が良く見えます。土星のカシニの空隙もコントラスト良く見え,輪郭もシャープなため,ぱっと見は一番クリア。黒を背景にカッチリした土星がぽかんと浮かび上がって見えてます。この時点では,18cmマクカセにも21cmミューロンにも勝っていた感じがします。ミューロンもマクカセも焦点距離が長いので,自然と倍率は高くなりがち。それが気流の乱れを必要以上に拾っているということも見え味を下げる要因となっていたのではと考えます。
 しばらくするとミューロンが外気に馴染んできます。そうなると中央無収差と21cmの口径が威力を発揮し始めて,木星の細かい模様がダントツに見えてきました。土星のカシニ空隙の見え方も屈折より1ランク以上の解像感で見えています。光量もあり迫力のある惑星像です。こうなると小型屈折はかないません。
 最後に,マクストフが馴染んできます。
 大口径であって,そこそこのコントラストの良さ。屈折とミューロンの良いとこどりをしたような特性が発揮され始めます。木星も土星もシャープさではミューロンや屈折にかないませんが,どのポイントでも優等生的な見え味になってきてました。
 
     (  )内は使用アイピース コントラスト
(木星の縞模様) 
解像感
(カシニの空隙)
(木星の縞模様)
 
鮮鋭度
(土星の輪郭) 
光量からの迫力
(明るさ) 
ミューロン210(Pentax XL)  3.5 5  5  5 
180mmマクカセ(ハイペリオンズーム) 4  4  4  5 
10.6cm屈折(ナグラーズーム)  5       
  上記は,木星と土星を何度か見比べてのレポーターによる完全に感覚的で主観的な評価です。
異なるアイピースを使っています。倍率の違いもあるし,アイピース自体の性能差や相性もあります。
ですから一概に,鏡筒のみの評価と判断できるわけではありません。念のため。

 実際に木星,土星を見比べましたが,序盤の屈折人気の原因は,ぱっと見の高コントラストとシャープさによるもの。模様の濃さ等は関係なしにどれだけ細かい模様が見えているかをじっくり観察すると,ミューロンがトップ。次点がマクカセとなってました。教科書通りに口径順です。

 今回の参加者は,Kumaさん,Natsuさん,ダヤンさん(と,そのお知り合い),Osakaさん,ピッコロの6名。お疲れさまでした。また次の機会に。 

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